〔「ただの太郎」でも、この世界を救えますか?〕 第4話〔1000人の勇者!?〕

第4話〔1000人の勇者!?〕

「ようこそ、私達の世界「ユーリセンチ王国へ。」

僕たちが居たのは、小高い岩山の中腹だった。

僕は初めて見る景色に興奮したのか、地面に足が着いてないみたいだ。気を抜けば飛んでいってしまうんじゃないかというぐらいだった。

そんな僕の手を取り、ミウは1つの山を指差し、

「ちょうどあの山の向こうに、私が住んでる街があるの。」

僕はぐるりと回りを見渡したが、湖らしき物は見当たらなかった。

どうやらここは、湖の中の国らしい。

僕たちは山を降り、道らしき所を歩いていた。

すると、後ろから馬車がやって来て、なにやらミウとおじいさんが話をしていた。

横で聞き耳を立てていたのだが、初めて聞く言葉で、たぶんこの世界の言語なのであろうと理解した。

馬車のおじいさんは、ミウと話ながらも、チラチラと僕の方を見ていた。

それもそのはずである。この世界にくれば、この世界用に変わるだろうと思っていた服装が、何も変わらず、Gパンにトレーナー、そして革ジャンだったのだ。

ちなみに、この革ジャンも父さんの形見だ。

するとミウは、僕に近づいて来て、

「街まで乗せてくれるって。」

僕は、おじいさんに頭を下げ、荷台によじ登った。

荷台には、見たこともない野菜や果物が、所狭しと積んでいた。

ミウに話を聞くと、湖の外で取れた野菜や果物を街で売るため、買い付けに行っていたらしい。

すると、おじさんは、リンゴのような果実を指差し、ミウに何か話している。するとミウが、

「おじさんが食べてもいいって。」

そう言いながら、ミウはリンゴのような果実を手に取り、僕に渡してくれた。

僕がその果実を手にした瞬間、「バシュ!」

僕の手の中で破裂してしまった。

というより、僕が握り潰してしまったのだ。

おじさんとミウは、ビックリしたが、僕が何度も何度も頭を下げると、手を横に振り、たぶん「いいから、いいから。」という意味の事を言ったのであろう、まったく何を言っているのかわからなかったが。

おじいさんから、もう1つリンゴのような果実を

受けとると、今度は水風船をつかむような感覚で握った。

そして、恐る恐る食べてみると、ちょっと拍子抜けをしてしまった。

リンゴそのものの味だったからだ。見たまんまのリンゴだった。

ただ、かなり柔らかい、例えるなら、柔らかいテニスボールをかじってるみたいだった。

すると、突然、おじいさんとミウの会話がわかるようになってきた。

そればかりか、荷台に置いてある箱の文字まで読めるようになっていたのだ。

そういえば、さっきミウが、ハンバーガーを食べた時の事を思い出した。

「私たちは、その国の物を食べると、その国の言葉を喋れるようになるの。」

つまり、それは僕にも当てはまる事だったのだ、どうやら、この国の物を食べると、見たもの、聞いたものが、脳内で勝手に変換されて、理解出来たりする仕組みらしい。

会話も、日本語で喋っているつもりでも、相手には、この国の言葉に、この国の言葉は日本語に聞こえるのだ。

会話がわかるようになると余裕が出来たのか、僕は、荷台にある荷物を見始めた。野菜や果物だけでなく、日用品や米俵らしき物まで積んでいた。

馬車の荷物に揺られながら進んでいると、何本か小さな橋のような物を渡った。

しかし、川のような跡はあるが、水はまったく無かった。

すると突然馬車が止まり、おじいさんが振り向いた。

「嬢ちゃん方、これを口に着けなさい。」

そういってハンカチみたいな布を差し出した。

「ミウ?これは何?」

僕は小声でミウに聞いた。するとミウは、

「これから、あの赤い毒水の湖の近くを通るの、臭いだけでも危険だから、みんなここを通る時は口を塞ぐの。」

「臭いだけでも危険」という言葉に、僕は恐怖を感じた。

「他の道はないの?」

「山が高すぎて越えられないの。だから、裾を回るしかないのよ。」

そして、そのまま進んでいると、いきなり目の前が開けた。どうやら湖に出たらしい。

すると、突然ミウが立ち上り、

「え!?なんで!どういうこと??

おじいさん!なんで、こんなに水が無くなっちゃったの!?一昨日まであんなに一杯あったのにて…」

「何を言うておる、毎日、毎日、少しずつ減り続け、今では半分も無くなってしもうた。」

そんな会話を聞きながらも、僕はどこかで嗅いだ事のある臭いに気が付いていた。

しばらく納得のいかない様子のミウだったが、その顔はすぐに微笑みに変わった。

「ほら見てタロン。あれが私たちの街よ。」

ミウが指差した方向には、たくさんの建物が建ち並び、その奥の小高い丘には、大きなお城が建っていた。

馬車は街中に入り、広場のような所で止まった。

僕とミウは馬車から降り、おじいさんに、

「おじいさん、ごめんなさい。僕たちはお金を持っていないんです。でもいつか必ず返しに行きますから。」

と、頭を下げると、

「ハハハ、かまわん、かまわん、あんた伝説の勇者なんじゃろ?

タロンからお金を取ったとあっちゃあ、一族の恥じゃ。

あんた、この国を守る為に来たんじゃろ?じゃったら、この国のみんなを守ってやってくれ。」

「ありがとう、おじいさん!」

僕とミウはお礼を行って、おじいさんに別れを告げた。

ミウは帰ってきたのが嬉しいのか、どこかへ走って行った。

僕もミウについて行こうとすると、おじいさんが、

「おい、若いの!これを持っていけ。」

それは袋一杯に入った、野菜や果物だった。

そして、その袋を手渡す時、

「わしは、お前さんがタロンだろうが、誰だろうが、別に構わん。でも、あの嬢ちゃんにとっては、お前さんは正真正銘の「伝説の勇者」なんじゃ。あの娘をしっかり守るんじゃぞ。」

そう言い残すと、馬車はゆっくりと進みだし、おじいさんは片手を振りながら去っていった。

「ふふふ、ひい祖父さんの言ってた事は、本当じゃったの…」

そんなおじいさんの呟きを知ることもなく、僕はくるりと180度向きを変え、ミウが走って行った方向に歩き始めた。

たしかに、大きな街である。人がたくさん居て、店もたくさんあった。しかし、やたらゴツい男達が目についた。鎧をきた男や、大きな剣を担いだ者、今にも戦いに行きそうな、そんな男達ばかりだ。

そんな男達の向こうにミウは居た、誰かを探しているようだ。

僕はミウの側に行き、

「ミウ、誰かを探してるの?」

「うん、友達なんだけど、お店に居なかったの。」

すると、

「あ!居た!」

ミウが見た方向に、例のゴツい男達に何やら紙を配っている女のコが居た。

ミウは、一目散に走って行き、

「チェスハ!!」

その声に気付いたチェスハは、

「ミウ!?」

そして、2人とも駆け寄り、

「ミウ!あんた1年間もどこ行ってたの!?みんな心配したんだから!ドラゴンに食べられたんじゃないかって…

でも、無事で良かった。」

「そ、そんな!?1年??私は一昨日街から出たばかりなのよ?

それより湖の水はどうなっちゃったの?なんであんなに減ってるの?」

「減ってるって、1年も経てば減るわよ。」

なんだか、2人の会話が噛み合ってなかった。

僕は、思い当たる節があり、ミウを呼んだ。

「ミウ、ちょっといい?ミウが僕たちの世界に来たのはいつ?」

「え〜っと、一昨日、街を朝に出て、昨日の夕方に洞穴を見つけて入ったの。」

「僕たちの街に居たのは

、およそ1日弱だから、もしかしたら、時間の流れが違うのかもしれない。僕たちの世界の1日がこの世界の1年ぐらいなんだよきっと。」

「そ、そんな…せっかくタロンを見つけたのに…」

すると、チェスハが話しに入って来た。

「ねえねえミウ、この人は?」

「ターダのタロン。」

ミウが元気なく答えた。すると、

「へ〜、あなたもタロンなんだ。じゃあこれ。おめでとう、ちょうど1000人目だ。 」

「え?あなたも?」

僕はチェスハの言葉に疑問を持ちつつ、紙に目をやった。

その紙には、「ターダのタロン証明書、第1000番」

「なんだこれ?」

「それは、滞在許可証みたいな物。それを持ってれば、この国のどこに行っても、怪しまれる事はないわ、橋を渡って湖の向こうにも行けるわよ。」

するとミウが、

「タロン!ダメ!湖の向こうは危ないから行っちゃダメ!」

僕に抱きついてきた。

ミウは抱きついたまま、

「でも、なんでこんなにタロンが?」

すると、チェスハはため息をつきながら、

「あんたが、「タロンを見つけて、お嫁さんにしてもらう〜!」って街から出て…」

「およ…め…!?」

僕が、ビックリしてミウの顔を見ると、真っ赤になって、

「チ、チェスハ!」

「アハハ、ゴメンゴメン、それから誰もタロンを連れて来ないから、ラウクン王子がしびれを切らして、おふれを出したの。

「ターダのタロンを連れてきた者、もしくは本人に金100万センチを与える」ってね。

そしたら、来るわ来るわ、中には名前をわざわざ変えて来た人もいるし、ビミョーに違う人もいるわ。むさ苦しいったらありゃしない…

まったく、伝説もかたなさしですわ。アハハ、」

「センチ?」

僕はミウに聞いた。すると、

「この国のお金の事、1センチから1000センチまであるの。」

ミウが小声で教えてくれた。

「それで?本物のタロンは居たの?」

ミウがチェスハに聞いた。

「さあ?だいたい誰も本物を見たこと無いんだし、城の人達も、とにかくこの街が獣族から守れればいいんだって。」

「じ、じゃあ、戦いは起こるってこと?」

ミウが心配そうに訪ねると、

「大丈夫、大丈夫、街から離れて迎え撃つらしいから。」

すると、チェスハは僕を見て、

「あんたは戦いに参加しない方がいいかもね。どう見ても勇者って感じじゃないし。」

「もう、チェスハ、失礼よ。」

僕は頭をかきながら、

「いやいや、僕もそう思っていたんだよ。これだけ強そうな人が一杯いたら、僕なんか邪魔になっちゃうから。」

すると、チェスハが、僕たちに近づいて来て、

「でもね、ここだけの話、伝説の勇者はホントに居たらしいの。

あたしも聞いただけだから詳しくは知らないけど、200年ぐらい前にも、湖の水が減った事があったらしいのよ。

その時「タロン」が現れて、家ぐらいある大きな岩を軽々と湖に投げ込んで、湖の底に出来てた穴を埋めたって。

それから100年以上経って、見た人が誰も居なくなったから、信じる人も居なくなったの、でも見てこれ。」

チェスハは1枚の写真を出した。それは水が少なくなった湖の写真だった。そこには高さが10メートルぐらいあるであろう、大きな岩が写っていた。

「この大きな岩が、タロンが投げ入れた岩って言われているの。水が無くなって岩が出て来たんだけど、よく見てここ。人の手形が付いてるのよ。」

僕とミウは、写真を覗きこんだ。そこにはハッキリと人の手形らしき物が写っていた。

「ホントだ、ハッキリと付いてる。」

「ホントに居たんだ。」

「でしょ!だから今度も本物が来るんじゃないかって、ウワサになってるのよ。で、ご覧の通り…

でも、ミウが無事でホントに良かった。しかもタロンまで見つけて。良かったね、ミウ、優しそうな人じゃん。」

「う、うん、ありがとう、チェスハ。」

「あんたもタロンなら、ミウの事頼んだわよ、ミウを泣かすような事をしたら、あたしが許さないからね。

まあ、何かあったらいつでもいらっしゃい。あそこの店にいるから、武器の事ならなんでも聞いて。」

チェスハの目線の先には「ティージーの鍛冶屋」の看板があった。

「うん、わかったよ。武器が必要になったら頼むよ。

ところで、あの看板の下にある「0002」っていう数字は何?」

「あれは今日来たお客さんの数、まったくこんなに勇者が居るのに、ケチ臭い奴らばかり。」

するとミウが笑いながら、

「どうせ、高いお金を取ってるんでしょ。」

「そんなことないわよ、うちの店は仕事が丁寧なのよ。適正価格だわ。

それより、ミウ、お城に行くんでしょ?みんな心配してたから、早く行って安心させてあげな。」

「うん、ありがとう。また後でね。」

ミウとチェスハの会話が終わったのを見て、僕は1つの疑問をミウに聞いた。

「ねえ、ミウ?この「ミウ」って名前、僕がつけたよね?

でも、ここの人達も「ミウ」って読んでるけど…」

「それはね、私のホントの名前は「ミオルン」なんだけど、みんな縮めて「ミウ」って呼ぶの。

だからタロンが「ミウ」って呼んでくれた時、物凄く嬉しかった。

まだタロンと一緒に居たいけど、1度お城に戻らなくちゃいけないから、お城には私しか入れないの、ちょっと待っててもらえる?ごめんね。」

「いいって、いいって。僕は街をブラブラしてみるよ。

後でチェスハの店で合流しよう。」

「うん、わかった。行ってくるね。」

そう言うと、ミウはお城に向かって走り出した。

「さて、どうしようかな?このお金が使えたら良かったのに…」

僕は鞄から財布を取り出し、中身を見た。すると、

「あれ?なんだこれ?」

財布の中身のお金が、見たこともない硬貨やお札に変わっていたのだ。

僕は硬貨を1枚取り出し、書いてある文字を読んでみた。

「1セ…ン…チ?そうか、これがこの国の通貨なんだ。たぶん言葉がわかるようになった時、一緒に変わったんだな。

これならなんとかなりそうだ。」

それから僕は街を一通り見て回ったあと、あることを確かめる為、馬車に乗せてもらい、湖のほとりに向かった。

馬車には危険がないよう、離れた所でまっていてもらい、そこからは歩いて湖にいった。

そして湖のほとりに着くと、足下にある小さな水溜まりに指を浸け、舐めてみた。

「う!ペッ!」

僕はすぐに吐き出した。しかし、それと同時に僕の予想は確信に変わった。

「やっぱりそうか…」

僕はすぐに街に帰り、チェスハの店で、ミウが来るのを待った。